• 10月 17, 2026

🌿 第11回 漢方シリーズ

むくみに使う漢方薬

~「水」の乱れから考える漢方薬の使い分け~

「夕方になると、靴がきつくなる」
「朝起きると、顔がむくんでいる」
「雨の日や湿気の多い日は、体が重く感じる」

このような「むくみ」は、日常診療でもよく相談される症状のひとつです。

むくみがあると、「体に余分な水がたまっているから、水を出せばよい」と考えたくなります。しかし、漢方ではもう少し違った見方をします。

漢方では、体の状態を「気(き)・血(けつ)・水(すい)」という3つの要素から考えます。その中で、体内の水分に関係する働きを「水」と捉え、「水」がうまく巡らず、偏ったり滞ったりしている状態を、むくみなどの症状と結びつけて考えます。

つまり、

「むくんでいるから、みんな同じ漢方薬」ではありません。

むくみ方だけでなく、のどの渇き、尿量、汗のかき方、冷え、疲れやすさなどを手がかりにして、漢方薬を使い分けます。

むくみにも「タイプ」があります

例えば、同じ脚のむくみでも、

「のどが渇くのに尿が少ない」
「疲れやすく、汗をかきやすい」
「冷え症で、貧血傾向もある」

では、選ばれる漢方薬が違ってきます。

今回は、むくみに使われる代表的な漢方薬として、五苓散(ごれいさん)・防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の3つを見ていきましょう。

図1.むくみに使われる代表的な3つの漢方薬

むくみに使われる代表的な3つの漢方薬(五苓散・防已黄耆湯・当帰芍薬散)の特徴を比較した図
むくみの現れ方や体質、伴う症状によって、五苓散・防已黄耆湯・当帰芍薬散などを使い分けます。

① のどが渇く・尿量が少ない ― 五苓散

五苓散(ごれいさん)は、「水」のバランスが崩れた状態に使われる代表的な漢方薬です。

ポイントになるのが、のどが渇くのに、尿量が少ないという状態です。

むくみだけでなく、頭痛、めまい、吐き気、下痢などを伴うこともあり、こうした一見バラバラに見える症状を、漢方では「水」の偏りという共通した視点から捉えることがあります。医療用五苓散の効能・効果にも、口渇・尿量減少を伴う浮腫、めまい、頭痛、悪心・嘔吐などが記載されています。

「むくみの薬」というよりも、体の中で偏っている「水」のバランスを整える漢方薬と考えると分かりやすいでしょう。

② 疲れやすく、汗をかきやすい ― 防已黄耆湯

防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)は、疲れやすく、汗をかきやすく、特に下半身がむくみやすい方に使われる漢方薬です。

漢方では、比較的体力が低下していて、筋肉がやわらかく、いわゆる「水太り」の傾向がある方がひとつの目安になります。

「夕方になると脚がむくむ」
「汗をかきやすい」
「体が重く感じる」
「疲れやすい」

このような症状が重なっているときに、防已黄耆湯が選択肢になります。医療用の添付文書でも、疲れやすい、汗が多い、小便不利、下肢の浮腫などが処方を考える特徴として記載されています。

また、膝の腫れや痛みを伴う場合などにも用いられることがあります。

③ 冷え症で、疲れやすい ― 当帰芍薬散

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、  第10回「冷えに使う漢方薬」でも登場しました。

この処方が「むくみ」にも登場するところが、漢方の面白いところです。

当帰芍薬散は、冷え症で疲れやすく、貧血傾向があり、むくみやめまい、立ちくらみ、月経に伴う不調などがみられる方に使われます。医療用添付文書でも、疲労しやすく腰脚が冷えやすい方を対象とし、貧血、倦怠感、めまいなどとともに、妊娠中の浮腫などが効能・効果に含まれています。

漢方では「水」だけを見るのではなく、「血(けつ)」の不足や巡りもあわせて考えます。当帰芍薬散は、冷えや疲れやすさを伴うむくみを考えるときの代表的な処方のひとつです。

「むくみ=漢方」と決めつけないことも大切です

ここは、とても大切なポイントです。

むくみは、長時間の立ち仕事や座り仕事などでも起こりますが、心臓・腎臓・肝臓などの病気や静脈の病気、薬の影響などによって起こることもあります。 特に心不全、腎疾患、肝疾患は全身性のむくみの重要な原因です。

また、片脚だけが急に腫れた、痛みや赤み・熱感がある、息苦しさを伴うといった場合には、深部静脈血栓症や肺塞栓症など、早急な診断が必要な病気も考えなければなりません。

「最近むくみが急に強くなった」「体重が短期間に増えた」「息切れもする」「むくみがなかなか引かない」といった場合には、漢方薬を試す前に、まず原因を確認することが大切です。

なお、漢方薬にも副作用や、ほかの薬との飲み合わせがあります。特に防已黄耆湯には甘草が含まれているため、ほかの甘草を含む漢方薬などとの重複にも注意が必要です。市販の漢方薬を含め、服用中の薬がある場合は医師や薬剤師にお伝えください。

🌿 院長からのワンポイント

「むくんでいます」だけでは、漢方薬はまだ決まりません。

診察では、「いつむくむのか」「左右どちらか、両方か」「朝と夕方のどちらが強いか」「尿量はどうか」「のどは渇くか」「汗をかきやすいか」「冷えや疲れやすさはないか」なども大切な手がかりになります。

五苓散、防已黄耆湯、当帰芍薬散は、どれもむくみに使われる漢方薬ですが、同じ「むくみ」という症状でも、その背景を見ながら処方を選ぶ。

ここにも、「病名だけではなく、その人の症状や体質を見る」という漢方診療の特徴があります。

まとめ

むくみに使われる漢方薬はひとつではありません。

①のどが渇き、尿量が少ないタイプには五苓散、
②疲れやすく、汗をかきやすいタイプには防已黄耆湯、
③冷え症で、疲れやすいタイプには当帰芍薬散――。

このように、漢方では「むくみ」という症状だけを見るのではなく、「水」の状態や体質、一緒に現れている症状を手がかりにして漢方薬を選びます。

一方で、むくみの背景に心臓・腎臓・肝臓などの病気が隠れていることもあります。

「なぜむくんでいるのか」を確認したうえで、その人に合った治療を考えることが大切です。

次回予告

🌿 第12回 漢方シリーズ

かぜに使う漢方薬

~葛根湯だけじゃない?症状や時期で選ぶ漢方薬~

「かぜには葛根湯」と思われがちですが、漢方では、すべてのかぜに同じ漢方薬を使うわけではありません。

寒気が強い、汗をかいている、のどが痛い、咳や痰が残るなど、症状やかぜの時期によって、選ばれる漢方薬は変わってきます。

次回は、葛根湯をはじめ、麻黄湯・桂枝湯・麻黄附子細辛湯など、かぜに使われる代表的な漢方薬について、「どんなときに、どの漢方薬を選ぶのか?」を分かりやすく解説します。

漢方薬について、このようなお悩みはありませんか?

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漢方薬は、
患者さん一人ひとりの症状や体質に合わせて処方する「医療用医薬品」です。

順聖クリニックでは、西洋医学による診断を基本としながら、必要に応じて漢方薬も組み合わせ、一人ひとりに合った治療をご提案しています。

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漢方薬シリーズを読む

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[~西洋医学と組み合わせる、現代の漢方診療~]

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[~漢方医学の基本をやさしく解説~]

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[~食欲不振・胃もたれ・お腹の張りを漢方で考える~]


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[~便秘のタイプによって選ぶ漢方薬は違う?~]


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[~補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯をどう使い分ける?~]


▶ 第9回 不眠・不安・イライラに使う漢方薬
[~眠れない・不安・イライラを漢方ではどう考える?~]

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[~手足の冷え・冷え症にもタイプがある?~]

▶ 第11回 むくみに使う漢方薬
[~「水」の乱れから考える漢方薬の使い分け~] ←今回

▶ 第12回 かぜに使う漢方薬
[~葛根湯だけじゃない?症状や時期で選ぶ漢方薬~]

▶ 第13回 漢方薬の飲み方と副作用
[~「漢方だから安全」とは限らない?知っておきたい注意点~]

文責:総合内科専門医 内藤 修

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