- 10月 11, 2026
🌿 第10回 漢方シリーズ
冷えに使う漢方薬
~手足の冷え・冷え症にもタイプがある?~
「手足がいつも冷たい」
「冬になると指先が冷えてつらい」
「身体はそれほど寒くないのに、足だけ冷える」
「冷えるとお腹や腰まで痛くなる」
こうした「冷え」に悩んでいる方は少なくありません。
冷え症は、単に「寒がり」というだけではありません。日本女性医学学会では、ほかの人が冷たさを感じないような環境でも、身体の特定の部分を特に冷たく感じる状態として説明されており、現時点では明確な診断基準があるわけではありません。
そして漢方では、「冷えるから、みんな同じ漢方薬」ではありません。
手足が強く冷えるのか、冷えると痛むのか、疲れやすさやむくみがあるのか、それとも冷えと同時にのぼせや肩こりがあるのか――。
こうした「冷え方」と一緒に現れる症状を手がかりに、漢方薬を選んでいきます。
冷えにも「タイプ」があります
西洋医学では、冷えそのものだけでなく、その背景に病気がないかを考えることが大切です。
一方、漢方では「冷え」という一つの症状だけを見るのではなく、これまでの漢方シリーズでご紹介した「気・血・水」や、その人の体質、冷えとともに現れる症状を含めて考えます。
たとえば、
- 手足が冷え、冷えると痛みやすい
- 疲れやすく、むくみや貧血傾向がある
- 冷えがある一方で、のぼせ・肩こり・月経症状などもある
では、選ばれる漢方薬が違ってきます。
今回は、冷えに使われる代表的な漢方薬として、当帰四逆加呉茱萸生姜湯・当帰芍薬散・桂枝茯苓丸の3つを見てみましょう。これらはいずれも医療用漢方製剤として冷えに関連する症状に用いられますが、適する症状や体質は同じではありません。
図1.冷えに使われる代表的な3つの漢方薬

冷えの現れ方や体質、伴う症状によって、選ばれる漢方薬は異なります。① 手足が強く冷え、冷えると痛む ― 当帰四逆加呉茱萸生姜湯
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)は、漢方薬の中でも、手足の冷えが強い方に使われる代表的な処方です。
特に、
「指先や足先がとても冷える」
「寒くなると手足が痛む」
「冬になるとしもやけができる」
「冷えると腰や下腹部が痛くなる」
といった場合に検討されます。
医療用の当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、「手足の冷えを感じ、下腹部などが冷えると痛みやすい」方の、しもやけ、頭痛、下腹部痛、腰痛などに適応があります。
つまり、単に「寒い」というより、末端の冷えが強く、冷えることで痛みまで出てくるタイプが一つの目安です。
名前は漢方薬の中でもかなり長いですね(笑)。
しかし、「手足の冷え+冷えると痛む」と覚えると特徴をつかみやすい処方です。
② 冷えに加えて、疲れやすい・むくみやすい ― 当帰芍薬散
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、冷えだけでなく、
「疲れやすい」
「むくみやすい」
「めまいや立ちくらみがある」
「月経に伴う不調がある」
といった症状を伴う方に使われることがあります。
漢方の考え方では、「血(けつ)」の不足と「水(すい)」の偏りが関係するタイプとして考えると分かりやすいでしょう。
医療用の当帰芍薬散は、疲労しやすく腰や脚が冷えやすい方の、貧血、倦怠感、月経不順、月経困難、更年期障害などに用いられます。使用目標としても、冷え症、貧血傾向、軽度のむくみなどが挙げられています。
したがって、「冷える+疲れやすい+むくみやすい」という組み合わせは、当帰芍薬散を考える一つのヒントになります。
③ 冷えるのに、のぼせる? ― 桂枝茯苓丸
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、漢方では「瘀血(おけつ)」=血のめぐりが滞った状態を考える代表的な処方の一つです。
「足は冷たいのに、顔はほてる」
「冷えもあるけれど、のぼせや肩こりも気になる」
一見すると矛盾しているようですが、このような訴えは珍しくありません。
医療用の桂枝茯苓丸には、冷え症のほか、月経不順、月経困難、更年期障害に伴う頭痛・めまい・のぼせ・肩こりなどが適応として記載されています。
そのため、冷えだけを見るのではなく、のぼせ、肩こり、月経に伴う症状などが一緒にあるかが、処方を考える手がかりになります。
「冷えているのだから、とにかく身体を温める漢方薬」という単純な選び方ではないところが、漢方のおもしろいところです。
「冷え=漢方」と決めつけないことも大切です
冷えを感じるからといって、すべてがいわゆる「冷え症」とは限りません。
たとえば、甲状腺機能低下症では、寒がり・冷えのほか、疲れやすさ、むくみ、体重増加、便秘などがみられることがあります。日本甲状腺学会の診断ガイドラインでも、寒さに耐えにくくなることは甲状腺機能低下症の症状の一つに挙げられています。
また、貧血や血管の病気など、別の原因が隠れている場合もあります。
そのため、急に冷えが強くなった、左右差が強い、指先の色が大きく変わる、痛みやしびれを伴う、強い倦怠感などほかの症状もある場合には、「冷え症だから」と自己判断せず、一度医療機関で相談することが大切です。
なお、漢方薬にも副作用やほかの薬との飲み合わせがあります。市販の漢方薬を含め、服用中の薬がある場合は医師や薬剤師にお伝えください。
🌿 院長からのワンポイント
「冷えています」だけでは、漢方薬はまだ決まりません。
診察では、
「どこが冷えるのか」
「いつ冷えるのか」
「冷えると痛むのか」
「むくみや疲れはあるのか」
「のぼせや肩こりはないか」
といったことが、処方を考える大切なヒントになります。
同じ「冷え」という症状でも、身体から出ているサインは人それぞれです。
漢方では、その違いを見ながらその人に合った処方を考えていくことが大切です。
まとめ
冷え症は、「手足が冷たい」という一言だけでは表せません。
①手足が強く冷えて、冷えると痛むタイプには当帰四逆加呉茱萸生姜湯、
②冷えに疲れやむくみなどを伴うタイプには当帰芍薬散、
③冷えにのぼせ・肩こり・月経症状などを伴うタイプには桂枝茯苓丸――。
このように、漢方では冷えの現れ方や、一緒に起こっている症状を見ながら処方を考えます。
「冷えは体質だから仕方がない」と思っている方も、症状がつらい場合には一度ご相談ください。
次回予告
🌿 第11回 漢方シリーズ
むくみに使う漢方薬
~「水」の乱れから考える漢方薬の使い分け~
「夕方になると足がむくむ」
「朝起きると顔がむくんでいる」
「雨の日や湿気の多い日に、身体が重く感じる」
漢方では、こうした「むくみ」を単に余分な水分がたまっている状態としてだけではなく、「水(すい)」のめぐりや偏りという視点から考えます。
次回は、五苓散・防已黄耆湯・当帰芍薬散など、むくみに使われる代表的な漢方薬について、症状や体質による使い分けを分かりやすくご紹介します。
漢方薬について、このようなお悩みはありませんか?
- 西洋薬だけでは症状がなかなか改善しない
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漢方薬は、
患者さん一人ひとりの症状や体質に合わせて処方する「医療用医薬品」です。順聖クリニックでは、西洋医学による診断を基本としながら、必要に応じて漢方薬も組み合わせ、一人ひとりに合った治療をご提案しています。
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[~西洋医学と組み合わせる、現代の漢方診療~]
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[~葛根湯だけじゃない?症状や時期で選ぶ漢方薬~]
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[~「漢方だから安全」とは限らない?知っておきたい注意点~]
文責:総合内科専門医 内藤 修
