- 10月 7, 2026
🌿 第9回 漢方シリーズ
不眠・不安・イライラに使う漢方薬
~漢方薬の使い分け~
「なかなか寝つけない」
「夜中に何度も目が覚める」
「心配事が頭から離れない」
「最近、ちょっとしたことでイライラする」
このような症状は、それぞれ別々にみえて、実際には一緒に現れることがあります。
不眠というと、まず「睡眠薬」を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、不眠の背景にはストレスや不安、心身の疲れ、更年期など、さまざまな要因があります。
漢方治療では、単に「眠れないから、この漢方薬」と決めるのではありません。
その人の体質や、眠れないときに一緒に現れている症状をみながら処方を選ぶことが大切です。
今回は、不眠・不安・イライラに使われる代表的な漢方薬について、分かりやすく解説します。
漢方では「眠れない」だけをみません
漢方医学では、体の状態を「気・血・水(き・けつ・すい)」などのバランスから考えます。
たとえば、ストレスなどによって「気」のめぐりが乱れると、イライラ、不安、緊張などが現れ、それが眠りを妨げることがあります。
一方で、仕事や介護、病気などが続き、心身がすっかり疲れているのに眠れない方もいます。
つまり、同じ「不眠」でも、
イライラして眠れないのか
不安で眠れないのか
疲れ切っているのに眠れないのか
によって、選ぶ漢方薬は変わってきます。
図1.不眠・不安・イライラに使う漢方薬の選び方

① イライラして神経が高ぶる ― 抑肝散
抑肝散(よくかんさん)は、イライラしたり、神経が高ぶったりして眠れない場合に使われる代表的な漢方薬です。
もともとは小児の夜泣きなどにも使われてきた処方ですが、現在では成人や高齢者にも幅広く用いられています。医療用製剤の効能・効果にも、不眠症や神経症などが含まれています。
「布団に入っても頭が興奮している」
「ちょっとしたことが気になってイライラする」
このような「神経の高ぶり」が目立つ場合に、選択肢となります。
② イライラが続き、胃腸も弱い ― 抑肝散加陳皮半夏
名前の通り、抑肝散に陳皮(ちんぴ)と半夏(はんげ)を加えた処方が、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)です。
抑肝散を使いたいようなイライラや神経の高ぶりがありながら、症状が長く続き、胃腸が弱っているような方に用いられます。
同じ「イライラして眠れない」という症状でも、体力や胃腸の状態までみて処方を選ぶところが、漢方治療の特徴の一つです。医療用製剤については現在もPMDAに添付文書が掲載されています。
③ 心身が疲れているのに眠れない ― 酸棗仁湯
酸棗仁湯(さんそうにんとう)は、心身が疲れているのに、なかなか眠れない方に使われる漢方薬です。
一日中頑張って「もうクタクタ」という状態なのに、いざ布団に入るとなぜか眠れない。
このようなタイプは、イライラして神経が高ぶっているタイプとは少し違います。
漢方では、症状だけでなく、その症状がどのような状態で起きているのかを考えることが大切です。
④ 不安が強く、心も体も疲れている ― 加味帰脾湯
加味帰脾湯(かみきひとう)は、不安感があり、心身の疲れも強い方の不眠などに使われます。
疲れやすい、顔色がすぐれない、不安になりやすい、といった症状が一緒にみられることもあります。
公的な漢方処方の資料でも、体力中等度以下で心身が疲れ、血色が悪い場合の不眠症、精神不安、神経症などが効能・効果として示されています。
「不安」と「疲労」が重なっていることが、処方を考える一つの手がかりになります。
⑤ のどのつかえと不安感 ― 半夏厚朴湯
不安や緊張が強くなると、
「のどに何か引っかかっている感じがする」
「のどが詰まったように感じる」
と訴える方がいます。
実際には食べ物などが詰まっているわけではないのに、このような違和感が続く場合があります。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は、このようなのどのつかえ感などを伴う不安や緊張に使われる代表的な漢方薬です。
ただし、のどの違和感には実際の病気が隠れていることもあります。症状が続く場合には、「ストレスだろう」と自己判断せず、必要な診察や検査を受けることも大切です。
⑥ 更年期のイライラや不眠 ― 加味逍遙散
加味逍遙散(かみしょうようさん)は、更年期などにみられるイライラ、不安、不眠などに使われる代表的な漢方薬です。
更年期には、ほてりや発汗、冷えなどの身体症状だけでなく、気分の変化や不眠が一緒に現れることがあります。
このような場合も、「眠れない」という症状だけを見るのではなく、年齢や体質、ほかにどのような症状があるかを考えて処方を選びます。
「不眠ならこの漢方薬」ではありません
ここまで6種類の漢方薬をご紹介しましたが、大切なのは薬の名前を覚えることではありません。
同じ「眠れない」という訴えでも、
①イライラしている
②胃腸が弱っている
③心身が疲れている
④不安が強い
⑤のどのつかえを感じる
⑥更年期の症状を伴っている
など、一緒に現れる症状は人によって違います。
漢方では、こうした違いを手がかりに、その方に合った処方を考えていきます。
🌿 院長からのワンポイント
漢方薬も「薬」です
「漢方薬は自然のものだから、副作用はない」と思われることがありますが、これは正しくありません。
漢方薬にも副作用や、ほかの薬との組み合わせで注意が必要な場合があります。複数の漢方薬を一緒に使うと、同じ生薬が重複することもあります。
不眠の治療で大切なのは、「眠れない」という症状だけを治療しようとしないことです。
「いつから眠れないのか」「何か心配事はないか」「日中の眠気はないか」「いびきや睡眠時無呼吸症候群を指摘されていないか」「むずむず脚症候群」「うつ病」など、別の病気が背景にないかを考えることも重要です。
漢方薬だけで何とかしようとせず、症状が続く場合には医療機関へご相談ください。
まとめ
不眠・不安・イライラに使われる漢方薬には、それぞれ特徴があります。
漢方治療で大切なのは、
「不眠だからこの薬」ではなく、
「どのような状態で眠れないのか」を考えること。
症状だけでなく、体質や心身の状態、一緒に現れている症状をみながら、その方に合った漢方薬を選んでいきます。
西洋医学による診断や治療と上手に組み合わせながら、漢方薬も治療の選択肢の一つとして活用していくことが大切です。
次回予告
🌿 第10回 漢方シリーズ
冷えに使う漢方薬
~手足の冷え・冷え症にもタイプがある?~
「手足が冷たい」「冬になるとつらい」「体は冷えるのに顔はほてる」など、ひとことで「冷え」といっても、その現れ方は人によってさまざまです。
漢方では、冷えの場所や体質、一緒に現れる症状などから、その人に合った漢方薬を考えます。
次回は、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸など、冷えに使われる代表的な漢方薬について、タイプ別の使い分けを分かりやすく解説します。
漢方薬について、このようなお悩みはありませんか?
- 西洋薬だけでは症状がなかなか改善しない
- 冷えや便秘、食欲低下などが続いている
- 更年期症状で困っている
- 漢方薬が自分に合うのか相談してみたい
漢方薬は、
患者さん一人ひとりの症状や体質に合わせて処方する「医療用医薬品」です。順聖クリニックでは、西洋医学による診断を基本としながら、必要に応じて漢方薬も組み合わせ、一人ひとりに合った治療をご提案しています。
気になる症状がありましたら、お気軽にご相談ください。
▶ 問い合わせ、初診のご予約・ご相談はこちら
(📞055-251-2121)(WEB予約)
漢方薬シリーズを読む
▶ 第1回 漢方薬ってどんな薬?
[~西洋医学と組み合わせる、現代の漢方診療~]
▶ 第2回 「証(しょう)」って何?
[~同じ病気でも処方が違う理由~]
▶ 第3回 「気・血・水」とは?
[~漢方医学の基本をやさしく解説~]
▶ 第4回 更年期に使う漢方薬
[~同じ更年期でも、選ぶ漢方薬が違う理由~]
▶ 第5回 頭痛・めまいに使う漢方薬
[~同じ頭痛・めまいでも、選ぶ漢方薬が違う?~]
▶ 第6回 胃腸の不調に使う漢方薬
[~食欲不振・胃もたれ・お腹の張りを漢方で考える~]
▶ 第7回 便秘に使う漢方薬
[~便秘のタイプによって選ぶ漢方薬は違う?~]
▶ 第8回 疲れ・体力低下に使う漢方薬
[~補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯をどう使い分ける?~]
▶ 第9回 不眠・不安・イライラに使う漢方薬
[~眠れない・不安・イライラを漢方ではどう考える?~] ←今回
▶ 第10回 冷えに使う漢方薬
[~手足の冷え・冷え症にもタイプがある?~]
▶ 第11回 むくみに使う漢方薬
[~「水」の乱れから考える漢方薬の使い分け~]
▶ 第12回 かぜに使う漢方薬
[~葛根湯だけじゃない?症状や時期で選ぶ漢方薬~]
▶ 第13回 漢方薬の飲み方と副作用
[~「漢方だから安全」とは限らない?知っておきたい注意点~]
文責:総合内科専門医 内藤 修
