• 10月 2, 2026
  • 10月 1, 2026

🌿 第8回 漢方シリーズ

疲れ・体力低下に使う漢方薬

~補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯をどう使い分ける?~

「最近、疲れやすくなった」
「病気をしてから、なかなか体力が戻らない」
「食欲がなく、以前のように元気が出ない」

こうした「疲れ」や「体力低下」は、日常診療でもよくみられる症状です。

しかし、同じ「疲れ」でも、その背景は人によって違います。

胃腸が弱って食欲が落ちている人もいれば、病気や手術のあとに体力を消耗している人、全身の衰弱が長引き、不安や不眠などを伴っている人もいます。

漢方では、「疲れている」という症状だけで処方を決めるのではなく、その人がどのように弱っているのかを考えます。

今回は、疲れや体力低下に使われる代表的な3つの漢方薬、

①補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
②十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
③人参養栄湯(にんじんようえいとう)

について、その違いと使い分けをご紹介します。

「疲れ」を漢方ではどう考える?

第3回「気・血・水」でご紹介したように、漢方では「気」を生命活動を支えるエネルギーのようなものとして考えます。

「気」が不足した気虚(ききょ)では、疲れやすい、だるい、食欲がない、元気が出ないなどの症状がみられます。

さらに「血(けつ)」も不足すると、顔色が悪い、手足が冷える、めまいなどが加わることがあります。

今回の3処方を理解するポイントは、

「気」の不足が中心なのか?
「気」と「血」の両方が不足しているのか?

という違いです。

図1.疲れ・体力低下に使われる代表的な3つの漢方薬

補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯の疲れや体力低下に対する使い分けを比較した図
補中益気湯は主に「気」を補い、十全大補湯と人参養栄湯は「気」と「血」の両方を補う処方です。

① 補中益気湯

胃腸が弱って、元気が出ないときに

補中益気湯は、疲れや体力低下に使われる代表的な漢方薬です。

「補中益気」とは、胃腸の働きを助け、不足した「気」を補うという意味です。

食欲がない、体がだるい、少し動くだけで疲れる、元気が出ない、といった方に使われることがあります。

補中益気湯には、人参や黄耆(おうぎ)など、「気」を補う代表的な生薬が含まれています。

胃腸が弱って食事を十分にとれず、全身の元気までなくなっている状態を立て直す処方と考えると分かりやすいでしょう。

ただし、「疲れたら補中益気湯」ではありません。

病後や術後で全身が衰弱し、冷えや貧血傾向などもみられる場合には、「気」だけではなく「血」の不足も考えます。

② 十全大補湯

病後・術後などで「気」と「血」が消耗したときに

十全大補湯を理解するキーワードは、「気血両虚(きけつりょうきょ)」です。

「気」だけでなく、「血」も不足した状態を意味します。

病気や手術のあと、なかなか元気が戻らない。食欲がなく疲れやすい。顔色が悪く、貧血傾向や手足の冷えもある。

このような状態で使われることがあります。

補中益気湯が「気」の不足を中心に考えるのに対して、十全大補湯は、全身を消耗して「気」と「血」の両方が不足している状態を補う処方です。

病後・術後の回復では、病気そのものの治療に加えて、十分な栄養や休養、必要に応じたリハビリテーションなどが基本です。

十全大補湯はそれらに代わるものではありませんが、低下した全身状態に合わせて補助的に用いられることがあります。

③ 人参養栄湯

全身の衰弱が長引き、不安や不眠なども伴うときに

人参養栄湯も、十全大補湯と同じように「気」と「血」の両方を補う漢方薬です。

体力が落ちてなかなか戻らない、食欲がなく全身が弱っている、さらに不安や不眠などを伴う場合に用いられることがあります。

十全大補湯と共通する生薬が多い一方、人参養栄湯には遠志(おんじ)や五味子(ごみし)なども含まれています。

そのため、体力低下や食欲不振に加えて、不安や不眠などを伴っていることも、処方を考える手がかりになります。

近年では、高齢者のフレイルや食欲低下などとの関連でも研究されています。

ただし、フレイルへの対応の基本は、十分な栄養、適切な運動、基礎疾患の治療です。漢方薬だけに頼らず、その人の状態に合わせて対応することが大切です。

3つの漢方薬をどう使い分ける?

ここまでを簡単に整理すると、

①補中益気湯
→ 胃腸が弱く、食欲低下やだるさが目立つ。

②十全大補湯
→ 病後・術後などで全身が衰弱し、貧血傾向や冷えなどもある。

③人参養栄湯
→ 全身の衰弱が長引き、食欲低下に加えて不安や不眠などもある。

という違いがあります。

実際の診療では、体質や年齢、病気の経過などもみながら処方を選びます。

同じ「疲れ」でも、その人がどのように弱っているのかをみることが大切です。

「食欲がない」なら補中益気湯?六君子湯?

食欲不振には、六君子湯(りっくんしとう)もよく使われます。

六君子湯は、胃もたれ、食欲不振、少し食べただけで満腹になるなど、胃腸症状が目立つ場合に使われます。

一方、補中益気湯は、食欲低下に加えて、だるさや体力低下など全身の「気虚」が目立つ場合に用いられます。

六君子湯には、食欲を調節するホルモンであるグレリンの分泌や作用に関わることも報告されています。

このように、同じ食欲不振でも、胃腸症状が中心なのか、全身の体力低下を伴うのかによって処方を使い分けます。

長引く「疲れ」は、原因を確認することが大切です

疲れや体力低下は、病気のサインであることもあります。

貧血、甲状腺疾患、糖尿病、心臓や腎臓の病気、感染症、睡眠障害などでも、疲労感や倦怠感が現れます。

また、日中の眠気や倦怠感が強い場合には、睡眠時無呼吸症候群などが隠れていることもあります。

疲労が長く続く場合や、以前とは明らかに違う体力低下がある場合には、「年齢のせい」「疲れているだけ」と決めつけず、まず原因を確認することが大切です。

まとめ

今回は、疲れや体力低下に使われる3つの漢方薬をご紹介しました。

①補中益気湯は、胃腸が弱く、食欲低下やだるさが目立つとき。
②十全大補湯は、病後・術後などで体力を消耗し、貧血傾向や冷えを伴うとき。
③人参養栄湯は、全身の衰弱が長引き、不安や不眠などを伴うときに用いられます。

同じ「疲れ」でも、その背景によって選ぶ漢方薬は異なります。

疲れの原因を確認し、その人の状態に合った治療を選ぶことが大切です。

次回予告

🌿 第9回 漢方シリーズ

不眠・不安・イライラに使う漢方薬

~眠れない・不安・イライラを漢方ではどう考える?~

次回は、不眠、不安、イライラなどの症状を漢方ではどのように考え、処方を選んでいくのかをご紹介します。

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第8回 疲れ・体力低下に使う漢方薬
[~補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯をどう使い分ける?~]


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第13回 漢方薬の飲み方と副作用
[~「漢方だから安全」とは限らない?知っておきたい注意点~]

文責:総合内科専門医 内藤 修

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