- 8月 15, 2026
【第3回 慢性便秘症シリーズ】
なぜ便秘になるの?
食事・運動だけではない「便秘の原因」
「便秘だから、野菜をもっと食べましょう」
「水分を多めにとりましょう」
便秘になると、このようなアドバイスを受けたことがある方も多いのではないでしょうか。
もちろん、食事や水分、運動などの生活習慣は、便通と深く関係しています。
しかし、慢性的な便秘の原因は、それだけではありません。
年齢とともに腸の動きが変化したり、糖尿病などの病気が影響したり、普段服用している薬によって便秘が起こったりすることもあります。
特に高齢になるほど、複数の原因が重なっていることも珍しくありません。
今回は、慢性便秘症がなぜ起こるのかを、総合内科の視点から整理してみましょう。
便が出るまでには、いくつもの仕組みが働いています
食べたものは胃や小腸で消化・吸収されたあと、大腸へ送られます。
大腸では内容物から水分が吸収されながら、少しずつ便が作られます。そして大腸の動きによって便が直腸へ運ばれると、私たちは「便がしたい」と感じます。
その後、
大腸が便を運ぶ
↓
直腸に便がたまる
↓
便意を感じる
↓
肛門周囲の筋肉が適切にゆるむ
↓
腹圧をかけて排便する
という一連の働きによって排便が起こります。
つまり、どこか一つの働きがうまくいかなくても、便秘につながる可能性があります。
図1. 便が出るまでの5つのステップ

① 食事・水分不足
便秘の原因として、まず思い浮かびやすいのが食生活です。
食事量そのものが少なければ、便の材料も少なくなります。
また、食物繊維は便の量を増やしたり、便を適度な硬さに保ったりするうえで重要です。水分摂取が不足すれば、便が硬くなりやすくなることもあります。
ただし、ここで注意したいことがあります。
「便秘=食物繊維を増やせばよい」とは限りません。
便が直腸まで来ているのにうまく排出できない方などでは、食物繊維を増やすだけでは症状が改善せず、かえってお腹の張りが強くなることもあります。
便秘のタイプや原因を考えることが大切です。
② 運動不足・筋力低下
身体活動が少なくなることも、便秘に関係します。
特に高齢者では、加齢に伴って筋肉量が減少するサルコペニアにも注意が必要です。
排便には腸そのものの働きだけでなく、腹筋などを使って腹圧をかける力も必要です。
筋力が低下すると、
- 便を押し出す力が弱くなる
- 活動量が減る
- 食事量も減りやすくなる
など、いくつもの要因が重なって便秘につながることがあります。
「運動しましょう」という単純な話ではなく、全身の筋力や生活活動そのものを見ることが大切なのです。
③ 加齢による変化
便秘は高齢になるほど増えていきます。
その背景には一つだけではなく、
- 食事量や水分摂取量の減少
- 身体活動量の低下
- 腹筋などの筋力低下
- 腸の動きの変化
- 排便に関係する筋肉の機能低下
- 便意を感じにくくなる
- 服用する薬が増える
など、さまざまな要因があります。
そのため、高齢者の便秘を単純に「年齢のせい」で済ませてしまうのは適切ではありません。
何が便秘を悪化させているのか、一つずつ確認することが重要です。
④ 病気が原因となる便秘があります
便秘の背景に、別の病気が隠れていることがあります。
たとえば、
糖尿病
自律神経の障害などによって腸の動きが低下し、便秘につながることがあります。
甲状腺機能低下症
身体全体の代謝が低下し、腸の動きも遅くなることがあります。
パーキンソン病などの神経疾患
自律神経や身体運動の変化などが影響し、便秘を伴うことがあります。
そのほかにも、さまざまな病気が便秘の原因となることがあります。
そして、もう一つ忘れてはいけないのが、大腸そのものに通過を妨げる病変がある場合です。
特に、
「最近になって急に便秘になった」
「便が細くなった」
「血便がある」
「体重が減ってきた」
といった変化がある場合は、「いつもの便秘」と考えず、医療機関へ相談することが大切です。
⑤ 実は「薬」が便秘の原因になっていることも
慢性便秘症を診るうえで、ぜひ知っていただきたいのが薬剤性便秘です。
病気を治療するために必要な薬でも、その作用によって腸の動きが弱くなったり、便が硬くなったりすることがあります。
便秘を起こす可能性のある薬には、たとえば、
- 一部の鎮痛薬
- 抗コリン作用をもつ薬
- 一部の抗うつ薬・向精神薬
- 鉄剤
- 一部の降圧薬
- その他、さまざまな薬
があります。
高齢になるほど複数の病気を治療するために服用する薬が増えやすく、**「便秘薬を追加する前に、現在の薬を確認する」**ことが重要になる場合があります。
ただし、便秘が気になるからといって、処方されている薬を自己判断で中止してはいけません。
主治医や薬剤師に相談しながら、必要に応じて薬の種類や治療方法を検討します。
図2. 慢性便秘症を引き起こす5つの要因

便秘の原因は「1つ」とは限りません
ここが今回、最も伝えたいところです。
たとえば高齢の方で、
食事量が減った
+
運動量が減った
+
筋力が低下した
+
糖尿病がある
+
便秘を起こしやすい薬を服用している
ということもあります。
この場合、「水分を増やしましょう」「便秘薬をもう1錠増やしましょう」だけでは十分でないかもしれません。
慢性便秘症では、その人の便秘を起こしている背景を全体として考えることが大切です。
「昔から便秘だから」で済ませないで
何年も便秘が続いていると、それが自分にとっての「普通」になってしまうことがあります。
しかし、
- 以前より便秘が悪化した
- 急に排便習慣が変わった
- 血便がある
- 腹痛や腹部膨満が強い
- 嘔吐を伴う
- 原因不明の体重減少がある
といった場合には注意が必要です。
特に強い腹痛や嘔吐を伴い、便やガスが出ない場合などは、早めの医療機関受診が必要です。
便秘の原因をチェックしてみましょう
あなたの便秘に関係していませんか?
□ 食事量が以前より減った
□ 水分をあまりとらない
□ 運動する機会が少ない
□ 筋力が落ちてきたと感じる
□ 糖尿病などの持病がある
□ 毎日いくつかの薬を服用している
□ 最近、便通の状態が変わってきた
当てはまる項目があっても、それだけで便秘の原因が決まるわけではありません。
ただ、便秘を「腸だけの問題」と考えず、生活習慣・病気・薬などを一度見直すきっかけになります。
まとめ
慢性便秘症の原因は、食事や水分不足だけではありません。
食事・水分
運動・筋力
加齢
病気
薬
など、さまざまな要因が関係します。
さらに、一人の患者さんに複数の原因が重なっていることも珍しくありません。
だからこそ慢性便秘症では、単に「便秘薬を飲む」だけではなく、なぜ便秘になっているのかを考えることが、適切な治療への第一歩になります。
次回予告
【第4回 慢性便秘症シリーズ】
便秘薬はどれも同じではありません
― 酸化マグネシウムから新しい便秘薬まで ―
便秘薬には、便を柔らかくする薬、腸管内へ水分を増やす薬、腸を刺激する薬など、さまざまな種類があります。
「便秘になったら、とりあえず下剤」ではありません。
次回は、それぞれの便秘薬がどのように効くのか、どんな点に注意して使うのかを整理します。
便秘でお困りの方へ
便秘は、排便回数だけでなく、便の硬さ、強いいきみ、残便感など、症状や原因が人によって異なります。
「年齢のせい」「いつもの便秘だから」と我慢せず、便秘が続いて生活に支障を感じる場合や、市販の便秘薬を長く使用している場合は、一度ご相談ください。
当院では、生活習慣や現在服用しているお薬、腎機能なども確認しながら、一人ひとりの状態に合わせた治療を一緒に考えていきます。
慢性的な便秘でお困りの方は、お気軽にご相談ください。
▶ 問い合わせ、初診のご予約・ご相談はこちら
(📞055-251-2121)(WEB予約)
慢性便秘症シリーズを読む
第1回 慢性便秘症とは?
[毎日出なくても便秘ではない?慢性便秘症の正しい定義]
第2回 慢性便秘症ガイドライン2023で何が変わった?
[便秘治療は新しい時代へ]
第3回 なぜ便秘になるの?
[食事だけではない「5つの原因」]
第4回 便秘薬はどれも同じではありません
[酸化マグネシウムから新しい便秘薬まで]
文責:総合内科専門医 内藤 修
