• 8月 9, 2026

【第2回 慢性便秘症シリーズ】

慢性便秘症ガイドライン2023で何が変わった?―便秘治療は新しい時代へ

便秘治療は「とりあえず下剤」から変わっています

「便秘になったら、とりあえず便秘薬を飲む」

以前は、このような治療を長く続けている方も少なくありませんでした。

しかし現在の慢性便秘症診療では、単に「便を出す」だけではなく、

なぜ便秘になっているのか、どのような便秘なのかを考えて治療すること

が重視されています。

日本では2017年に『慢性便秘症診療ガイドライン2017』が発刊されました。その後、新しい作用を持つ便秘薬が次々に登場し、便秘の病態や検査についても新しい知見が蓄積されました。

そこで約6年ぶりとなる2023年に、

『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』

として大きく改訂されました。

今回の改訂では、便秘の定義を見直すだけでなく、診断から治療までの流れを示した診療フローチャートが新たに作成されています。

「便秘」と「慢性便秘症」が区別されました

第1回でもご紹介しましたが、2023年版では「便秘」と「慢性便秘症」の意味が整理されています。

便秘は、硬い便、排便回数の減少、強いいきみ、残便感、排便困難感などを認める状態です。

一方の慢性便秘症は、その便秘が慢性的に続き、日常生活や身体に支障をきたしうる『病気(疾患)』として位置づけられています。

つまり、

「便が毎日出ないから病気」というわけではありません。

反対に、毎日排便していても、毎回強くいきんだり、残便感が続いたりして生活に支障があれば、治療が必要な慢性便秘症の可能性があります。

慢性便秘症には「2つのタイプ」があります

2023年版を理解するうえで、とても大切なのがこの考え方です。

日常診療では、慢性便秘症の症状を大きく、

① 排便回数減少型

② 排便困難型

に分けて考えます。ガイドラインの診療フローチャートにも、この2つの症状分類が明記されています。

① 排便回数減少型

便が大腸をうまく移動せず、排便回数が少なくなるタイプです。

「何日も便が出ない」

「便が硬くなってしまう」

といった症状が中心になります。

② 排便困難型

こちらは、便が直腸まで来ていても、うまく排出できないタイプです。

「強くいきんでも出ない」

「出口で詰まっている感じがする」

「排便しても残っている感じがする」

といった症状がみられます。

この2つでは、同じ「便秘」でも必要となる治療が異なる場合があります。

便秘薬を増やせば、すべての便秘が治るわけではないのです。

図:慢性便秘症の2つのタイプ


「便秘の原因」を確認することが重要です

診療フローチャートでは、慢性便秘症の患者さんに対して、最初から便秘薬を選ぶわけではありません。

まず、

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 便潜血検査
  • 必要に応じた画像検査

などを行い、便秘の背景に別の病気が隠れていないかを確認します。

特に、

  • 血便
  • 原因不明の体重減少
  • 貧血
  • 急に始まった便秘
  • 腹部の異常所見

などがあれば、大腸がんなどの器質的な病気を除外するため、大腸内視鏡検査などが必要になることがあります。

また、便秘の原因は消化管だけとは限りません。

糖尿病や神経疾患などの病気、あるいは現在服用している薬が原因となる薬剤性便秘症もあります。

2023年版のフローチャートでも、原因となる薬剤がある場合には、その中止や変更が検討される流れになっています。

つまり、

「便秘薬を足す前に、便秘を起こしている原因がないかを確認する」

ことも大切なのです。

新しい便秘薬が増え、治療の選択肢が広がりました

かつて便秘治療では、酸化マグネシウムや刺激性下剤などが広く使用されてきました。

現在はそれらに加えて、

  • ポリエチレングリコール(PEG)製剤
  • ルビプロストン
  • リナクロチド
  • エロビキシバット

など、異なる作用を持つ薬を選択できるようになっています。

2023年版では、浸透圧性下剤、粘膜上皮機能変容薬、胆汁酸トランスポーター阻害薬などについて、それぞれ有効性が検討されています。

そのため現在は、

「便秘だから同じ薬をずっと飲み続ける」

のではなく、

便秘の症状、年齢、腎機能、持病、服用している薬などを考えて治療薬を選ぶ

ことが重要になっています。

便秘薬の種類と使い分けについては、このシリーズの後半で詳しくご紹介します。

刺激性下剤は「毎日飲み続ける薬」とは限りません

センノシド、センナ、ピコスルファートなどの刺激性下剤は、腸を刺激して排便を促します。

効果を実感しやすい一方で、長期間にわたって高用量を漫然と使用することは避ける必要があります。

2023年版の治療フローチャートでは、刺激性下剤はオンデマンド治療として位置づけられています。つまり、必要なときに補助的に使用するという考え方です。

長年、市販の刺激性便秘薬を毎日のように服用している方も少なくありません。

しかし急に自己判断で中止するのではなく、現在の便秘の状態を評価したうえで、他の治療へ段階的に切り替えていくことが大切です。

「出口の便秘」を調べる方法も進歩しています

2023年版では、便が直腸まで来ているのにうまく出せない排便困難型についても、診療の流れが詳しく示されました。

その中で注目される検査の一つが、直腸エコー(超音波検査)です。

直腸内に便がたまっているか、便の状態がどうなっているかなどを体の外から超音波で確認する方法で、ガイドラインでは体外式超音波検査の有用性についても新たに検討されています。必要に応じて、直腸肛門内圧検査や排便造影検査など、より専門的な検査につなげる流れも示されています。

便秘薬を何種類飲んでも改善しない場合、

「薬が弱い」のではなく、そもそも便を出す機能に問題がある

可能性もあるのです。

オピオイドによる便秘も独立して考えるようになりました

痛みの治療などに使用されるオピオイドは、腸の動きを抑えて便秘を起こすことがあります。

2023年版では、こうしたオピオイド誘発性便秘症についても独立した診療フローチャートが作成されました。

通常の慢性便秘症とは原因が異なるため、治療薬の選択も変わります。

高齢になるほど複数の薬を服用する方が増えるため、便秘を診るときには「どんな薬を飲んでいるか」を確認することがますます重要になっています。

まとめ

2023年に改訂された慢性便秘症のガイドラインでは、単に「便を出す」だけではなく、

なぜ便秘になっているのかを考え、便秘のタイプや患者さんの状態に合わせて治療する

という考え方が、より明確になりました。

大きなポイントは、

  • 「便秘」と「慢性便秘症」を区別する
  • 排便回数減少型と排便困難型を考える
  • 大腸がんなどの病気を見逃さない
  • 薬剤性便秘症を確認する
  • 新しい便秘薬を適切に使い分ける
  • 刺激性下剤を漫然と使用しない
  • 排便困難型では直腸肛門機能も評価する
  • オピオイド誘発性便秘症を適切に診断する

という点です。

便秘治療は、「出なければ下剤を追加する」という時代から、「原因と病態を考えて治療する」時代へ変わってきています。

次回予告

【第3回 慢性便秘症シリーズ】

便秘の治し方―食事・運動・正しい排便習慣

薬を使う前に、毎日の生活の中でできることがあります。

次回は、水分、食物繊維、朝食、運動、排便習慣などについて、「何をすればよいのか」だけでなく、食物繊維を増やすとかえって苦しくなる便秘があることなど、注意点も含めて解説します。

同じ「便秘」でも、原因によって治療は異なります

便秘でお困りの方へ

便秘は、排便回数だけでなく、便の硬さ、強いいきみ、残便感など、症状や原因が人によって異なります。

「年齢のせい」「いつもの便秘だから」と我慢せず、便秘が続いて生活に支障を感じる場合や、市販の便秘薬を長く使用している場合は、一度ご相談ください。

当院では、生活習慣や現在服用しているお薬、腎機能なども確認しながら、一人ひとりの状態に合わせた治療を一緒に考えていきます。

慢性的な便秘でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

▶ 問い合わせ、初診のご予約・ご相談はこちら
📞055-251-2121)(WEB予約


慢性便秘症シリーズを読む

第1回 慢性便秘症とは?
[毎日出なくても便秘ではない?慢性便秘症の正しい定義]

第2回 慢性便秘症ガイドライン2023で何が変わった?
[便秘治療は新しい時代へ]

第3回 なぜ便秘になるの?
[食事だけではない「5つの原因」]

第4回 便秘薬はどれも同じではありません
[酸化マグネシウムから新しい便秘薬まで]

文責:総合内科専門医 内藤 修

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